透明マントの物理学

屈折率が違う媒介を光が通過すると、光が屈折したり反射したりすることは良く知られています。蜃気楼などは、そのもっとも典型的な例です。最近、これら光の経路が媒介を通ることによって曲がることを利用して、いわゆるハリーポッターの「透明マント」を作り出すことが現実性を帯びてきています。もちろん、ハリーポッターの「透明マント」はSFの中のフィクションですが、最近、脚光をあびているメタマテリアルなどを使うと、電磁場の方向をうまく迂回させることにより、あたかもその物体が存在しないように見せることのできる「透明マント(不可視装置)」が物理的に可能であることがわかってきています。

これまで、いくつかの透明マントの設計方法が提案されてきましたが、我々の考案した正負の屈折率を持つ物質を組み合わせる方法をもちいることにより、既存の提案された装置の限界を打ち破り、等方性媒質で2次元のperfect invisibility device (完全な透明マント)の設計図を世界ではじめて具体的に完成させることができました。完全というのは、位相遅延がゼロで、かつ反射もゼロということです。

これまでは、数学の定理であるNachman’s theoremにより、等方性媒質ではperfect invisibility (完全な透明マント)は不可能であると広く信じられていましたが、我々の考案したDRD法は巧みにこの定理の仮定を回避することができ、大きなインパクトを与えることができました。これら我々の考案した方法を発展させ、透明マント(不可視装置)の設計方法について研究しています。特に、3次元透明マント、等方性マテリアルと非等方性マテリアルを用いたときの違いや、時間遅れ、反射の問題、狭い波長領域の問題などに取り組んでいます。

 

<透明マントの物理学を解説している関連PDFは下記のリンクからどうぞ>

透明マントの設計方法とメタマテリアル

 

透明マントの論文

[16] J.C. Nacher . T. Ochiai, “Plus–minus construction leads to perfect invisibility”,
Journal of Mathematical Physics, 52, 012903, 17pages (2011)
[論文リンク], [PDF]

 

[11] T. Ochiai, U. Leonhardt and J.C. Nacher, “A novel design of dielectric perfect invisibility devices”,
Journal of Mathematical Physics, 49, 032903, 13pages (2008)
(この論文は、日経BP、東京新聞、北海道新聞、日本テレビ「朝ずばっ」などのさまざまなメディアに取り上げられました。)
(Journal of Mathematical Physicsにおいて 2008年4月のTop 20 Most Downloaded Articlesの第1位に選ばれました。)
[論文リンク], [PDF]